2014年01月10日

サッチャリズムが生んだイングランド暴動

【PUBLICITY 1956】2014年1月10日(金)
■サッチャリズムが生んだイングランド暴動■
freespeech21@yahoo.co.jp

▼ロンドンのみどりさんのブログ「ロンドンSW19から」から、
さらなる力作コラム「サッチャリズムが生んだイングランド暴
動」を2回に分けてご紹介。

こういう長文で緻密な構成で読みがいのある文章を読むと、ぼ
くはもう「書く体力」がねえなあ、すげえなあ、と思う。

「10分でわかる20世紀後半のイギリス政治史」的な充実し
た内容。文中に鏤(ちりば)められた8つの註もキレ味鋭い。
適宜改行と▼。

――――――――――――――――――――――――――――
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/355879414.html

2013年04月14日
サッチャリズムが生んだイングランド暴動

[知恵袋回答] 2013/4/14 00:07:58

<サッチャー元首相が亡くなって
 祝福している人たちがいるけど
 サッチャー政権時代はそんなにひどかったんですか?>

▼サッチャーについて中間の意見を持つ人に会ったことがあり
ません。好きか嫌いかどちらかです。そのように生前から評価
が極端に分かれる政治家だったので、その死に際して好悪の表
現がより極端に噴出しているようです。

▼簡単に言えば、サッチャーは人の生活の全場面に競争原理を
持ち込みました。したがって競争に勝った人はその機会を与え
たサッチャーをほめちぎり、勝てなかった人は嫌うという構図
になっています [*1]。

[*1]うんと単純化すればです。自分自身は「敗者」とは言えな
くても、そのような、すべてが競争で決されるような社会に反
対する人々もサッチャーを評価しない。

▼サッチャー自身は八百屋の娘[*2]から一国の首相にまで上り
詰めた人で、いわば人生の勝者です。そして、自分にできたこ
とをすべての人に求めました。「やればできる。できないのは
努力が足りないからだ」ってことです。

でも、ちょっと考えればわかりますが、どんなにがんばっても
全員が勝者になれるわけではなく、一部に大勝ちする者がいれ
ばその影で多数の敗者が生まれることになります。

[*2]正確には「食品兼雑貨屋」で個人経営のコンビニのような
商店。「グローサリー」には八百屋の意味もあり、野菜は必ず
売っている。同じような品揃えでも、新聞も販売している場合
は「ニューズエイジェント」とカテゴライズされる場合もある。

▼サッチャー以前のイギリスは「ゆりかごから墓場まで」と言
い表される高福祉が社会全体に行き渡っていました。これは、
第二次大戦後、荒廃した社会の立て直しのためにアトリー労働
党政権が導入した社会主義政策の一環で、基幹産業の国有化と
社会福祉(無料の医療と教育、安価な公営住宅など)を支柱と
していました。

戦後しばらくはこの政策転換が奏功し、健康の向上や女性の社
会進出、教育機会の平等などが進みました。しかし、サッチャ
ーが政権に就いたころには高福祉の弊害も出てきており、また
労組が極端に力を持ったことを一因として世界経済から立ち後
れる事態となっていました。これが有名な「英国病」です[*3]。

[*3]たとえば独占企業の東電が腐ったように、競争のない独占
国営企業はえてして腐りがち。


▼サッチャーは政権に就くと国の足かせになっていた福祉予算
を切り詰め、公営事業(鉄道、水道、郵便など)を私企業に売
り払います。また、採算のとれなくなった(と言われていた[*4])
公営炭坑事業などを廃止し、同時に組合をつぶしました。

[*4]実際に採算の取れなくなっていた炭坑をつぶすと同時に、
「改革」の足かせになる(組合の強い)利益の上がっていた鉱
山(たとえばイングランド北部のダラムの鉄鋼鉱山)もつぶし
たらしい。

▼このときに、たとえば親子代々炭坑一筋で働いていた一家の
大黒柱が何千人も一度に首を切られましたが、職を失うのはそ
の人たちだけではなく、それらの労働者家庭によって支えられ
ていた地域の全産業が同じ道をたどりました。

これにより国の負担は軽減された一方、職を奪われた人々から
働く喜びとプライドをはぎ取りました。そのようにして、町ご
と荒廃したまま(住人の精神生活も荒廃したまま)、その後の
好景気からも取り残された町がイギリスにはあちこちにありま
す(これから良くなる見込みもありません)。

▼「ヴィクトリア時代への回帰(質素倹約、自助努力、自己責
任)」がサッチャーの政治哲学ですが、実際のところ、彼女の
人生も運に負うところが少なくない。辞退者があったために繰
り上がり奨学生としてオックスフォード大学へ進学できたこと
[*5]や、卒業後に法廷弁護士の資格を取れた[*6]のは結婚相手
のサッチャー氏(裕福な実業家)の援助によることなど、ラッ
キーな人生だったと言っていいと思います。

[*5]当時、大学教育はすべて無料だったので(1997年まで無料
だった)この奨学金は書籍代や住宅費その他の費用に充てたと
推測。当時の大学進学率は18歳人口の5%程度とのことで(改め
て調べてませんけど)、大学に行くこと自体がそもそもエリー
トの証。

[*6]大学卒業時の学位は「化学」で、結婚後再び勉強し直して
法廷弁護士の学位と資格を得た。

▼戦後のイギリスに社会福祉を導入したアトリーが裕福な弁護
士の息子で、オックスフォード大卒業後にスラムで働いている
ときに貧困層への福祉の必要性に目覚めたのとは対照的に、サ
ッチャーは一貫して個人主義だった(個人の利益追求を奨励し
た)と言えるかもしれません。

<サッチャーがいなければ
 イギリスはよりよい国になっていましたか?>

▼わたし自身はサッチャー嫌いですが、それでもイギリス経済
を建て直したサッチャーの業績はしぶしぶ認めざるを得ないと
思っていました。

しかし、一昨日テレビで聞いたところでは、当時の欧州はどの
国もイギリスと同様の経済低迷状態にあったにもかかわらず、
フランスもドイツも社会民主主義政権のもと、サッチャーが導
入したような労働者から希望を奪う政策なしで立ち直ったと聞
き(ソースを確認していませんが)、そういう道もあったのだ
なあと知ったのでした。

<難しいですね…
 極端な社会主義も逆に極端な資本主義、競争社会も
 それらの欠点が大きくでてしまう
 だれもが幸福になるような政策なんてなかなかないものです
 炭鉱労働者達を既得権益者と言ってしまえばそれまでだが
 彼らも国民ですしね
 ただ切り捨てるわけにも行かない>

▼ブレアが労働党にあって労働党らしくない政治家だったよう
に、サッチャーは保守党にあっても全く保守的でない政治家で、
非常にラディカルな政策を繰り出しました(ちなみにブレアの
政策は労働党風味のサッチャリズム)。

たとえば、公営住宅を住んでいた人に安価で払い下げたり、国
営企業の私営化にあたって株を広く一般に持たせたりなど(組
合員がこぞって買ったそうです)。この機会に大儲けとまでは
いかないまでも小金儲けぐらいはできた人が多く、それが長く
人気を保てた理由のようです。

そんなわけで(確かに人頭税は不人気でしたが)サッチャーは
選挙に負けていません。任期半ばでの辞任は党内守旧派との権
力争いに負けたからで、国民には一度も否定されてないんです。

▼では何が問題か。サッチャーの言う「がんばればだれでも目
標を達成できる」の「目標」がイコール金儲けになってしまっ
たからではないでしょうか。

これによって、サッチャー以前のイギリス人の美徳の一つと言
われていた質素倹約や弱者への思いやりといったモラルが薄れ、
享楽主義や自分さえ良ければいいといった風潮が蔓延しました。
このようにして壊れた社会は一朝一夕には元には戻らず、崩壊
は進んでいます[*7]。

[*7]この拝金主義の極端な表出が、一方ではシティの株トレー
ダーたちの金満生活であり、もう一方が一昨年夏にイングラン
ド各地で巻き起こった暴動だった。イギリスでは、政治的背景
を持つ暴動は時々発生するので暴動そのものは珍しくないが、
一昨年の暴動でもっともショッキングだったのは(人種差別へ
の抗議から始まったにもかかわらず)ほとんどの暴動「参加者」
の行動の動機が物欲と金銭欲のみだったこと。

▼とは言え、いま現在のサッチャーへの風当たりの強さは、現
キャメロン政権がサッチャーの仮面をかぶって繰り出している
弱者いじめとも言える政策にも原因があるかもしれません。

現政権はサッチャーでさえ手をつけなかった国民健保の私営化
にも着手し始めており、それをやっているのが八百屋の娘では
なく上流出身のぼんぼん集団なので非常に不人気です[*8]。

[*8](キャメロンは、どちらかと言えばサッチャーそのものよ
りも、サッチャーの優秀な子であるブレアの手法に習うことが
多く、今回のサッチャー葬儀もブレアがやったダイアナ葬儀に
学んだのではないかと思う。国葬でもないのに女王参列を促し
たところなどに特に影響を感じる。ブレアはダイアナ葬儀を開
催することを通じてダイアナの神通力まで自分のものにした部
分がある。

サッチャーは保守党を変えたとよく言われるが、保守党が変わ
ったのはサッチャーが政権にいたときだけで、保守党そのもの
はサッチャー前後でさほど変わっていないようだ。

深刻な変わり方をしたのは労働党のほうで、結局サッチャリズ
ムを正しく踏襲するニューレイバーを引っさげてブレアが登場
するまで政権を取ることができなかった。

――――――――――――――――――――――――――――


▼このコラムにはもう少し続きがあるのだが、次号以降で。


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