2012年01月27日

暴力団排除条例が排除するもの

◆今号のポイント◆-------------------
金融、建設、港湾、出版、映画などさまざまな業界で、「反社
会的勢力の排除」「暴力団排除」をかかげた自主規制の動きが
浸透しつつある。これを支える土台が「社会」たる私たちだ。
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▼ひとつ転載。暴力団排除条例の廃止を求める記者会見が、1
月24日、参院議員会館で行なわれたので、その声明をコピー
しておく。

同条例は昨年、全都道府県で施行されたわけだが、「当局が市
民を巻き込む」点に最大の問題がある。

キーワードは「反社会的勢力」で、この一言を振りかざすと、
最悪のケースを考えれば、なんでもしょっぴくことができる。

「社会」なるものが誰かを「あ、あいつは反社会的勢力だ」と
決めれば、合法的に取り締まれるわけだ。というバカバカしい
話が、法律・条例の文言の上では現実になりつつあるから、一
笑に付すことができない。

▼記者会見で面白かったのが、ニコニコニュースで要約されて
いる「会場を訪れていた元外交官の佐藤優氏」のコメント。

http://news.nicovideo.jp/watch/nw184053

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「Xという団体に加盟している人間と付き合いの人間は排除す
る。こういう法律がどういう風になるかを考えると、治安維持
法がある。

最初は(対象が)共産党だった。ところが死刑に加わって、そ
れに対する労働運動、さらに宗教団体。最後には大本教のよう
な国家権力に近かった宗教団体まで弾圧を受けた。私の皮膚感
覚で言えば、かつてXは鈴木宗男とその一派だった。ああいった
ことはいつでもある」

と、戦前の治安維持法を挙げると共に、自身が鈴木宗男事件に
からみ有罪判決を受けた経験をまじえて語った。
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▼ニコニコ生放送で放映されたが、来場者数は28691、総
コメント数は10800だったそうで、いい時代になったもの
だ。声明文は堅苦しいが、内容は正しいと思う。


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「暴力団排除条例」の廃止を求め、
「暴対法改定」に反対する表現者の共同声明

▼2011年・平成23年10月1日に東京都と沖縄県が暴力団排除条
例(「暴排条例」)を施行した。その結果、全都道府県で暴排条
例が施行されることになった。こうした事態にいたるまで、わ
たしたち表現者が反対の意思表明ができなかったことを深く反
省する。

▼わたしたち表現者も、安全な社会を否定するものでは決して
ない。しかし、その「安全な社会」の実現を謳いながら、「暴
排条例」は、権力者が国民のあいだに線引きをおこない、特定
の人びとを社会から排除しようとするものである。これは、す
べての人びとがもつ法の下で平等に生きていく権利を著しく脅
かすものである。

▼暴対法は、ヤクザにしかなれない人間たちが社会にいること
をまったく知ろうとしない警察庁のキャリア官僚たちにより作
られた。さらに危険なことは、暴力団排除を徹底するために、
表現の自由が脅かされることだろう。

▼条例施行以後、警察による恣意的な運用により、ヤクザをテ
ーマにした書籍、映画などを閉め出す動きをはじめ、各地各方
面で表現の自由が犯される事態が生まれている。こうしたなか
で、金融、建設、港湾、出版、映画などさまざまな業界で、
「反社会的勢力の排除」「暴力団排除」をかかげた自主規制の
動きが浸透しつつある。萎縮がさらなる萎縮を呼び起こす危険
が現実のものになっている。

いまからでも遅くない。暴排条例は廃止されるべきである。

▼こうした流れのなかで、新年早々から、一部の勢力が暴対法
のさらなる改悪を進めようとしていることに、わたしたちは注
意を向けなければならない。

かねて福岡県知事らは、法務省に対して暴対法の改定を求めて
要請を続け、これを受けて警察庁は暴対法に関する有識者会議
を開催して準備を始めている。

そこでは、現行法のさまざまな要件の緩和、規制範囲の拡大が
検討されている。昨年暮れには、福岡県知事らが暴力団に対す
る通信傍受の規制緩和やおとり捜査・司法取引の積極的導入を
法務大臣に直接要請したことが報じられた。

暴対法がこうした方向で改悪されるならば、表現の自由、報道
の自由、通信の自由、結社の自由などの国民の基本的権利はさ
らなる危機に立つことになるだろう。

▼ヤクザの存在は、その国の文明度を示すメルクマールでもあ
る。たとえば北朝鮮にはヤクザはいないと言われている。戦前
の社会主義者の規制が全国民への弾圧に拡大したように、暴対
法は「暴力団」の規制から国民すべてを規制する法律として運
用されることになるだろう。これは、わたしたちに「治安維持
法」の再来を含めた自由抑圧国家の成立を想起させる。

わたしたちはこうした動きに強く警戒し、強く反対する。わた
したち表現者は、自由な表現ができてこそ表現者として存在で
きるのであり、表現者の存在理由を否定し、「自由の死」を意
味する暴排条例の廃止を求め、暴対法の更なる改悪に反対する。

2012年・平成24年1月24日

○会見出席者

青木 理(ジャーナリスト)
佐高 信(評論家)
鈴木邦男(一水会顧問)
田原総一朗(ジャーナリスト・評論家)
辻井 喬(作家・詩人)
西部 邁(評論家)
宮崎 学(作家)
若松孝二(映画監督)



○賛 同 者(2012年平成24年1月20日現在)

猪野健治(ジャーナリスト)
植草一秀(経済評論家)
魚住 昭(ジャーナリスト)
大谷昭宏(ジャーナリスト)
岡留安則(元『噂の眞相』編集長・発行人)
小沢遼子(評論家)
角岡伸彦(ジャーナリスト)
喜納昌吉(ミュージシャン)
栗本慎一郎(有明教育芸術短期大学学長、評論家)
斎藤貴男(ジャーナリスト)
齋藤三雄(ジャーナリスト)
須田慎一郎(ジャーナリスト)
高橋伴明(映画監督)
日名子暁(ルポライター)
平野 悠(㈱ロフトオーナー)
みなみあめん坊(部落解放同盟所属)
南丘喜八郎(『月刊日本』主幹)
宮台真司(社会学者・首都大学東京教授)
山平重樹(ジャーナリスト)
若松孝二(映画監督)

連絡先 千代田区西神田2-7-6 同時代社気付
川上 徹

メールkawakami@doujidaisya.co.jp
Fax 03-3261-3237

http://www.bouhai-hantai.com/
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▼暴力団排除条例が排除するものは、暴力団だけではない。排
除されて初めて気づくものが多い。でも、テレビが取り上げな
いかぎり、決して「ニュース」にはならない。だから、この条
例や法律が生み出す危機がニュースになることはない。
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