2011年06月06日

原発に夢中04~作業員ルポ2冊

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最近では私の知るかぎり、各原発では釜ヶ崎などの日雇い労働
者をほとんど雇わなくなってきている。身元の不確かな者たち
が原発で大勢働いている、という話がひろまっていたことへの
電力会社の対策の一環ともいわれ、最近では原発周辺地域住民
のなかから労働者を募集することが増えている。

(2011年4月29日)

堀江邦夫
『原発ジプシー 増補改訂版--被曝下請け労働者の記録』
346頁-347頁
2011年5月31日第1刷
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◆今号のポイント◆-----------------
1979年刊の堀江邦夫『原発ジプシー』(現代書館)と、1
983年刊の柴野徹夫『原発のある風景』(未来社)の二冊を
読めば、ニッポンの原子力政策の輪郭が見えてくる。
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▼散々、原発について報道され、既に「飽きた」感が出ているが、ぼくが知りたい情報はわずかしか見当たらない。それは先に書いたとおり、原発作業員の、現在ただいまの生活であり、生活感情の流れだ。

▼「一つの物事は、上から見れば3割、下から見れば7割が見える。だから下から見ろ」。これはぼくがある人から教わった“ものの見方”だ。3:7という割合が絶妙だと思う。

この割合が重要だ。下から見たら7割であり、すべてがわかるわけではない。しかし上から見ただけだと、もっとわからない。上下両方が必要だというこの考え方は、下からの現場偏重によって陥ってしまう「部分の全体化」も防いでくれる。

勿論、上からの3割のみによる「部分の全体化」で事足れりとする、抽象化の暴力など論外だ。この“ものの見方”を、福島第一原発を巡る報道にあてはめてみようと思う。

▼報道の大半は、国や経産省・保安院や東京電力の発表もので溢れかえっている。「上からの3割」だ。そのうち「あの時、誰がどう言った、こう言わない」という局所的、政局的報道が蔓延するだろう。

いっぽう、後藤政志をはじめ原発の設計者たちの証言がインターネットの中で話題になり、やがて国会内にまで波及した。東京新聞などが早めに取り上げた。これは「下からの7割」の一部だ。極めて貴重な証言であり、浜岡原発停止要請が出た今こそ、さらに多くの光が当たってほしい。

▼ぼくが考える「下からの7割」の主な証言者は、言うまでもなく原発作業員である。彼らこそ原発事故の中心部に居続けていると同時に、死角に追い込まれた人々だ。無名だ。「フェースレス50」だ。

しかし忘れてはいけない。彼らを“無名たらしめている動きと構造”を。その執拗で組織的な手口を。「フェースレス50」を美談に仕立て上げた全国的なうねりのなかで、「原発の夢」を成り立たせているカラクリが隠されてしまった。目の前にいるのに見えない存在を今、ぼくたちはつくってしまっている。

▼原発関連の本の歴史を追ってみると、1990年代から減っている分野がある。それは原発作業員の実態に迫るルポルタージュ、実録ものだ。

ぼくが読んだなかで、原発作業員を巡る最も深く広い領域をカバーしたルポ二冊ある。1979年刊の堀江邦夫『原発ジプシー』(現代書館)と、1983年刊の柴野徹夫『原発のある風景』(未来社)だ。まったく特徴の違う二冊だが、だからこそこの二冊を読めば、ニッポンの原子力政策の輪郭が見えてくる。

▼『原発ジプシー』は最近、講談社文庫で改訂・復刊された。前々号「原発に夢中 2」の冒頭は、本書からの引用。さらに現代書館から増補改訂版が出た。今号の冒頭はこちらから。

これから買うなら、断然、現代書館版をおすすめする。装丁と文中の写真の見やすさが違う。どうしても物体としての迫力が違うやね、単行本と文庫本とでは。

本書の最大の特徴は、【著者自身が作業員として原発内部で働いた記録】を公表した点にある。著者が作業員に取材したのではない。作業員を記者として撮影したのでもない。

第1章「美浜原子力発電所」。第2章「福島第一原子力発電所」。第3章「敦賀原子力発電所」。自ら被曝し続ける日々を、淡々と綴る。あくまで地味だが、これ以上、雄弁なルポはない。ぼくは信じられない思いで読んだ。

1979年の刊行時、著者は31歳。詳細な記録と冷静な視点の節々に、著者と、その同僚の生活感情が脈打っている。こんな力作があったなら、さらに原発業界を深く抉(えぐ)るルポが、当時の雑誌にはいろいろ載っていたのではないか。ご存知の方がおられたら、教えていただきたい。

▼いっぽう『原発のある風景』は、調査報道の一つの模範だ。「赤旗」の政経部記者だった著者は、原発の暗部をひっぺがえす大スクープを連発した。しかし、その論調に赤旗的な独善臭は薄い。

ほとんど知られていない本なのだが、何か致命的な欠陥などがあるのだろうか。もし本書を「共産党の本だから」という理由で毛嫌いする人は、かなり損をしている。

(つづく)
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