2011年05月17日

原発に夢中02~さかのぼる

 
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胸が、痛い。呼吸ができぬくらい、痛い。苦しい。声も出せな
い。ボーシン(※竹山の註=現場監督)がやってきた。

「チェッ、なんてことを! ……しばらくそこにおれや」

ケガの状態を尋ねようともせず、彼はそう言い残すと、すぐに
姿を消してしまった。(中略)

一人取り残されてしまった。痛い。足場板をかきむしる。たた
く。半面マスクをむしり取る。

堀江邦夫『原発労働記』219頁
第2章「福島第一原子力発電所」
講談社文庫/2011年5月13日第1刷
※原題『原発ジプシー』(1979年、現代書館)を編集
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◆今号のポイント◆-------------------
誰もが注目し、誰もが実態を知らない【原発作業員の生活】こ
そ、原発の亀裂だ。原発作業員の生活こそ、「近代」の亀裂で
あり、「国家」の亀裂であり、「資本」の亀裂だ。
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▼ぼくは菅首相をひきずりおろそうとしている国会議員の言動
を理解できない。それはそれは頼りない首相だ。しかし、自分
たちが血道をあげている権力ゲームは、その「土台」=国を失
えば、そもそも成り立たなくなるのだ。今は国がなくなる瀬戸
際だ、という単純な道理が、全く視野に入っていない。

これは世代の問題なのか。そうかもしれない。しかし、ほんの
少し、事実をみれば、たちどころにわかるはずなのだが。

▼東北大震災以降、ぼくが尤も衝撃を受けたニュースは、これ
だった。



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先人は知っていた 「歴史街道」浸水せず
(毎日新聞2011年4月19日付夕刊)

津波浸水図※東北大学防災科学研究拠点事務所の資料・国土地
理院航空写真を基に作成 東日本大震災に伴う津波で大きな被
害を受けた仙台平野で、浸水域の先端が、江戸時代の街道と宿
場町の手前に沿って止まっていることが、東北大の平川新教授
(江戸時代史)の調査で確認された。

仙台平野は400~500年おきに大津波に見舞われており、
街道は過去の浸水域を避けて整備された可能性が高いという。
平川教授は「先人は災害の歴史に極めて謙虚だった」と話し、
今後の復旧計画にも教訓を生かすべきだと提言する。

国土地理院が作製した東日本大震災の浸水図に、平野を縦断す
る奥州街道と浜街道を重ねたところ、道筋の大部分と宿場町が
浸水域の先端部からわずかに外れていたことが分かった。宿場
町の整備後に仙台平野を襲った慶長津波(1611年)では、
伊達領で1783人が死亡したとの記録が残る。

平川教授は「慶長津波を受けて宿場町を今の位置に移したとも
推察できるが、今回の浸水域と比べると見事なほどに被害を免
れる場所を選んでいる。津波を想定して道を敷いた可能性は高
い」と指摘する。

同平野は明治以降も繰り返し津波に見舞われた三陸海岸と比べ
、津波被害の頻度が少ないとされる。慶長津波の浸水域は明ら
かになっていないが、内陸約4キロの山のふもとまで船が漂流
したとの記録がある。東北大の別の研究チームによれば、今回
の津波は海岸線から最大5キロ程度に達し、平安時代の貞観地
震(869年)の浸水域をやや上回った。

平川教授は「残念ながら明治以降の開発において、津波の経験
は失われた。復興のまちづくりは災害の歴史を重視して取り組
んでほしい」と話している。【八田浩輔】
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▼このニュースと対になるニュースは、これだろう。


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東日本大震災:東京湾沿岸で液状化42平方キロ 世界最大
2011年4月16日 18時50分:毎日新聞

東日本大震災に伴い、東京湾沿岸で液状化現象が確認された面
積は少なくとも約42平方キロと世界最大だったことが地盤工
学会の現地調査で明らかになった。阪神大震災の4倍以上の規
模。茨城など他県でも液状化が確認されており、今後の調査で
被害範囲はさらに拡大する見通しだ。

液状化は、地下水が浅い所を流れている砂地の地盤が震動によ
って液体状になる現象で、埋め立て地で起きやすい。東京電機
大の安田進教授(地盤工学)らは3月12~23日、東京・お
台場から千葉県浦安市、千葉市にかけての東京湾沿岸を調査し
、液状化が確認できた場所の面積を積算した。

その結果、同エリアだけで東京ドーム約900個分に相当する
42平方キロと推計された。過去最悪の液状化被害とされた今
年2月のニュージーランド地震の被害面積(約34平方キロ)
を上回る。

地下水と砂が一緒に噴き出す「噴砂」も各地で見られ、浦安市
や東京都江東区などでは噴砂の厚さが約30センチと国内最大
だった。一方、東京ディズニーリゾートや幕張メッセなど、液
状化対策の地盤改良を施した地区に大きな被害は見られなかっ
た。

液状化被害が大規模になった原因について安田教授は「液状化
が発生した後も地盤が大きく揺さぶられ続けたからではないか
」と、揺れの継続時間の長さが被害を拡大させたとみている。
3月11日の地震では、東京都心や千葉市などで震度4以上の
揺れが2分以上続いた。

沿岸の埋め立て地のほか、埼玉、千葉、茨城各県の内陸部でも
河川や湖沼沿いに液状化が確認されており、今後の調査で被害
面積はさらに広がる。

一度液状化した場所は、規模の大きな余震や誘発地震で再び液
状化する可能性があるという。安田教授は「復旧は原状に戻す
だけでなく、費用をかけても再発を防ぐ地盤対策を行うことが
理想的だ」と指摘する。【八田浩輔】
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▼嘯(うそぶ)く海への畏れを込めて、古(いにしえ)の人は
津波に「海嘯」となづけた。この言語感覚が失われてしまった
世界を、ぼくたちは「近代」と呼んでいる。液状化した東京湾
岸は近代の墓標かもしれない。

▼自然を征服し、コントロールできると朗らかに信じ、前へ前
へと進んできた「近代」。「国家」も「資本」もこの「近代」
と骨絡みであり、「国家という名の宗教」「資本という名の宗
教」は、近代の沃野=自意識の拡大=技術の進歩を謳歌した。

このとめどない「前進」「勝利」は、何度も何度も警鐘を鳴ら
され、本誌も無意識の裡にその文脈の中で編まれてきたのだっ
た。

▼毎日新聞に載った歴史街道の記事は「近代を生きた日本人は
、江戸時代の先祖よりも愚かになった」という冷厳な事実を白
日の下に晒している。発見した平川新や報じた八田浩輔は、こ
の街道が示す真実の重さに気づいているはずだ。上記の短い記
事量では報じきれない膨大な歴史を浮き彫りにしている。

▼「この国難に菅首相はふさわしくない」と言い放つ資格のあ
る国会議員などジャーナリストなど一人もいない。誰もが「先
人」より無智で愚かになっている今、“手駒でたたぢに勝負す
る”以外に手はないのだ。

そうでなければ権力ゲームの土台たる国家が壊れかねないとい
う単純な道理に、特に、経産省を中心とする権力者たちは気づ
いていない。あたかも原発という「核」の技術にまつわる利権
を守り抜けさえすれば、わが国は安泰であると信じ込んでいる
かのようだ。

核兵器開発につながる昭和版「坂の上の雲」は、2011年=
平成23年3月の数日間で、まさに雲散霧消した。

さかのぼろう、活火山である白雪の富士山(休火山ではない)
が猛々しく噴火した、わずか300年前へ。さかのぼろう、大
地震が頻発した明治から関東大震災までの日々へ。

未曾有だと思った阪神淡路大震災(1995年=平成7年)も
20世紀最大ではなかった。ニッポン列島は数世代を境に、繰
り返し大地震と津波に苦しんできた国土だということを、ニッ
ポンの権力者は学び直さねばならない。

▼核融合をテーマに「さかのぼる」作業は、他のどのテーマよ
りも時間軸が長い。ニッポン列島が、ほんの100万年ほど昔
に現在の形になったばかりだという、基本的な知識を支える、
膨大な地理学の知見、現在進行形で充実し続ける諸科学の成果
を学ばなければならない。

▼ぼくは、もはや電気を使わない生活には戻れない(というか
知らない)。ぼくは近代の分際を、国家の分際を、資本主義の
分際を弁えたい。近代や国家や資本【を支えるもの】を軽んじ
て電気依存の生活を続けることなど不可能だ、ということを。

この点が、3・11を経て「メディアとつきあう方法」に組み
込まねばならない大きな支点だ。

▼四十九日が過ぎ、「どこが底なのか」わからないまま過ごし
てきた。自意識の底が抜け、社会の底も抜けた後、踏みとどま
り、何かをつくるうえで踏ん張ることのできる「底」はどこな
のか。

それはたぶん一本の歴史街道であり、敷衍するなら、近代を相
対化し、国家と資本を相対化しうる、ありとあらゆる物事だ。
それはすごくありふれた“もの”であり、皆が疑いもせず生き
ている“ルール”であるはずだ。

じゃあ、世界を夢中にさせている原発、その「底」を知るため
に踏み破るべき亀裂は、どこで口を開けているのだろう。それ
はもはや、誰の目にも映っている。

これまでつゆほども疑わなかった電気生活。その夢のような日
々を支えてくれている現場。誰もが注目し、誰もが実態を知ら
ない【原発作業員の生活】こそ、原発の亀裂だ。

原発作業員の生活こそ、「近代」の亀裂であり、「国家」の亀
裂であり、「資本」の亀裂だ。

(つづく)
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